「派遣村」問題まとめ1〜キリギリスは派遣切りの夢を見ない

派遣労働および底辺労働について、俺の知ってること・考えていることを書いていきたいんだけど、どこからどうとっかかっていいものやら困ってた。
そこにid:totsuanさんから話の整理をしやすい質問を3つ頂いたので、これをきっかけにしてみたい。

大きく失業者としてみればこれほどの批判に晒されるはずもないだろうに、元が”派遣労働”をしていたというだけで、これまでの当方も含めてどうも”享楽主義の消極的労働者(キリギリス)”という色眼鏡がかかってしまうようで(※大変失礼な表現で恐縮ですが)。
”派遣労働”の世間的イメージと実情のギャップも問題だと思うのですが、このギャップは何がきっかけで湧いてきたものなんでしょう?バブル期のヤンエグとか?

色眼鏡程度なら全然問題がなくて、下手すると派遣社員に恨みを持ってるように見える人もいる。
簡単に休み取って海外旅行行って、定時に帰って、ちょっと専門知識があるからって鼻にかけて威張りやがって、それが今ではどうだ、派遣切りザマァァァ!!!!みたいなのを2ちゃんねるで見たことがある。(あれ、面白かったのに、なんで保存しておかなかったかな。自宅から見てたのだったらログが残ったはずなのに)


でも彼(彼女?)が恨みに思った特定個人は、多分派遣切りにあってないし、困ってないと思うよ。
その人はきっと、強い派遣だろうから。


ご存知の通り、派遣契約の内容は、労働者にとって不利なものが多い。
雇用は不安定、賃金はピンハネ、いいところといえば流動性のみ。
流動性っつーと都合のいいときだけ働く、という労働者側の都合にも使われるけど、一方で仕事としての流動性があることが職種そのもののの価値を高める場合、ってのがある。


例えば、通訳。外国からお客さんが来る時だけ必要、ってケースがある。たまにしか用がない場合、専門の人を常時雇用するわけにもいかない。必要な時には社内の英語の出来る人を通訳代わりにしたり、フリーの通訳を探し回ったりしてたんだろうね。
そういう専門技術を持った人に限って、派遣労働が認めたのが1986年の労働者派遣法。
労働者のほうが立場が強かったし、もともと個人事業でやってたわけだから最初から不安定だし、労働者にとってもデメリットよりメリットが大きかった。


こういう強い派遣は今も強い。
俺の知り合いでも派遣の薬剤師をやってる人がいて、彼女がいくらもらってるかは知らないけど悠々自適。
派遣会社の求人広告で薬剤師を時給3500円で募集してたのを見たことがある。広告内容から推測するに多分派遣先はうちの近所のドンキホーテだったと思う。
それと前後してドンキは薬コーナーをやめたから、それでも集まらなかったんだろう。
こういう派遣に派遣切りはありえない。


そしてまたこういうのを含めて、各種の調査をするからワケが分からなくなる。
そりゃ強い派遣は言うよ、「これからも派遣で働きたい」って。
あるいは子育てや介護の事情で時間的制約を持つ、主に既婚女性。これは旦那の収入もあるし、派遣で低収入でもいいんだよ。彼女らも言うよ、「これからも派遣で働きたい」って。
その数字をとっ捕まえて
「ほら、派遣は自分で選択してるじゃないか、自己責任プギャー」
とか言うやつが出てくる。


それはともかく、このときに一番多かったのはおそらく「事務機器操作」という職種での派遣社員だろう。
これが世間一般で言うところの「派遣の事務の女の子」。
一番多かったというより、それ以外の派遣って数的にほとんど存在してないもん。
彼女たちも強かった。なにせバブルの人手不足の時代だもんね。そりゃ強いさ。やりたい放題してたんだろうな。俺はその頃は社会人じゃなかったから知らんけど。


このときに「ハケン=享楽的」ってレッテルが貼られたんじゃないかな。
享楽的というか、賢い選択だったんだよ。誰だっていい条件で働きたいもん。
それは、終身雇用が当たり前の時代に、あえて派遣に飛び出すという勇気に対する報酬でもあると思う。
まあ、最悪結婚すればいい、という社会が与えた立場によるものは大きいだろうけどさ。
ただ、与えられた環境を最大限に生かす知恵と行動力の結実、これがハケンOLであって、彼女たちを責めるのであれば、先にその環境を与えた奴を責めるべきだし、この世のありとあらゆる知恵と行動力を責めるべきだ。


そしてなにより肝心なことは、オジサンたちの恨みを買ったハケンOLは、その多くが今は派遣ではないだろうし、(結婚してるか、正社員になってる。なにせ知恵と行動力があるんだから)、仮にいま、派遣のままだったとしても、派遣切りの憂き目にあってるのは彼女たち事務派遣じゃない、ってこと。
派遣切りを考える時に、事務派遣と製造派遣とは区別して考えなければならないんだ。


労働者派遣法は96年・99年と折からの不況を受けて、対象職種を広げる改正をされていく。
労働力の買い叩きに主軸を置くようになっていく。
そして2004年、日本の潮目になる労働者派遣法の大改悪が行われる。
それが製造業への派遣解禁だ。


ここまでで冒頭の疑問への答えになってると思うので、いったん切ることにする。
この後の展開を考えると、次は登録型派遣と常用型派遣の違いについて解説したほうがよさそうだ。


「派遣村」問題まとめ2〜派遣の半分以上は正規雇用であるに続く