国会図書館の怪人

その時俺は国会図書館のカウンターの上に「真理がわれらを自由にする」って彫ってあるのを見て、「れ」の字に縦に切れ目が入ってるから、いつも「わしら」に見えて仕方がないなー、でも「われら」も「わしら」も変わらないよなー、とか思ってた。
前方にぶつぶつ独り言を言いながら物理工学の本を読むおっさんがいるのは知ってた。けど図書館にはそういう人はよくいる。


でもなんか気になって観察してると、誰もいない席に向かって怒ってるようだ。怒ってる怒ってる、とか思ってると、その席の隣の柱の向こうから顔色を変えた女の子がカウンターに向かっていって、なにかを訴えて、戻ってきた。
誰もいない席じゃない、俺からは死角だったけど柱の影にいた女の子に向かって怒ってたんだった。
女の子が席に戻った後も、白髪混じりの角刈りのおっさんは盛んになにか攻撃的な言葉を投げかける。
耐え切れなくなった女の子が再びカウンターに。しかしカウンターの職員は普通の客同士のトラブルのように聞き流してるふうに見えた。思わず飛んで行ってしまった。
「死ねとか言われるんです」と彼女は怯えた顔で俺に訴えてきた。
ああいう被告人が起こした粗暴犯罪の公判を俺はずいぶんと見てきた。
「なにをされるか分からないし、今日は帰った方がいいと思うよ。」


彼女が帰って数分後、角刈りのおっさんは突然立ち上がり、誰かを探す風に歩き出した。
ヤバい。バイトと思しき館内案内の若い衆に協力を求めておっさんの後を追った。
幸いになことに彼女は国会図書館から離れた後だったようだ。


若い衆から連絡を受けた職員に事情を聞かれた。
つーか、若い衆の話によるとこの角刈りのおっさんは国会図書館によく来て、椅子を蹴飛ばしたりするような行動もしていて、報告をしてたんだけど誰も対応してなかったようだ。


このエントリが大事件の予兆になりませんように。