オペラ座の怪人

20数年映画を見ているけど、映画製作の噂を聞いた時から楽しみにしていた映画なんてこれが最初で最後だろう。劇団四季のロングラン初日と同じくらいの入れ込み様で静岡ピカデリー2階の21:30の回。客入りは70人弱。
結論から言うと舞台版を好きな人間にとっては完璧なる補完映像。なんだかんだいって舞台版には限度というものがある。冒頭のシャンデリアが上がる場面は作りもののUFOの発進にしか見えないし。そういった部分を完璧に払拭してくれた…と言いたいところだが、豪華なところは豪華でもところどころ安っぽいセットが見え隠れしてた。
あとは口パク。もちろんミュージカル映画なんだから口パクなのはいいんだけど、ぶっちゃけファントムが口パクどころか口パクパクパクというところがいくつもあって興ざめ極まりない。
そして前評判で覚悟していた「一人だけ歌の下手っぴな人が混じっている」
この世の全ての音楽の中でのお気に入り、music of the nightをああ歌われた日には…。これが今井清隆であったなら、と思った俺が浅はかだった。
ジェラルド・バトラーの歌が下手なんじゃない。歌い方がクラシックの流れを汲んだミュージカルっぽい感じではなく、そこを生かした違和感をあえて作り出したのではないだろうか?愛を語る歌と対照的に憎悪を叩きつける表現からそんな印象を受けた。
舞台やCDやビデオでオペラ座の怪人の映像や音楽に随分接してきたけど、ここまでネガティブな表現に長けているファントムはいないと思う。「歌が下手っぴ」なのではなく、愛情表現を不器用にしか出来ないファントムを見事に体現したと受けとめた。
今までのオペラ座で見られなかった演出としてファントムが幼い頃に見世物小屋で晒し者になっていたところをマダム・ジリーに助けられてオペラ座に連れていかれるクダリがあるけど、蛇足かなぁという印象がある。もっともミュージカルファンと違って映画ファンの中には見えるものしか見えない人がいることへの配慮なのかも知らんが。そういった部分も含めて親切なつくりといえば親切だし、初見の人を置いてけぼりにするようなことは絶対にない。舞台と違って場面転換がハッキリしていることもあってとても分かりやすい。
東京はどうか知らないけど静岡で四季がロングランやった時の音楽とは比べ物にならない迫力、映画館で見る価値十二分にあり、だ。
ストーリー全般を書き出すと「女はクソ、クリスティーヌ死ね」ってことになるのでやめとく。
「あなたはどんな人生を知ってるの?」ってサーカスに飼われて、オペラ座に軟禁されていたファントムには酷だろ。お前は普通に愛されて育ってきたんだろって。どうしようも出来なかった弱みをつかれて反論できずにいると調子にのって真実を突いた気になって勝ち名乗りをあげる、俺がファントムならこの時点で100年の恋も冷めるけど。こういう女、結構いるよ。
つーかそんな姿を見てしまって100年の、といったら言い過ぎだけど1月や2月の恋が冷めたことは思い出すのも嫌になるくらいある。