結局うなぎを食べるためだけに

浜松科学館で「銀河鉄道の夜」を見るのも、出来たばかりの浜北のTOHOシネマズで映画を見るのも、それぞれの理由でボツになって、結局は浜松まで浜名湖天然うなぎを食べるためだけに行った形に。

「うな正」

浜松市三方原町467-4

場所を漠然と分かったつもりでいたために、迷って結局電話して聞いた。



2代目の若旦那の熱心な接客に好感。ただ、サービス精神旺盛はいいんだけど説明しすぎる部分もあった。

水ナスの浅漬け、心地よいあっさりとしたみずみずしさが夏にふさわしい一品で、薬味の生姜も不要なほど。「青りんごのような味」という説明も不要。つい「青りんご」を確認しちゃう。

焼くうなぎを選ばせてくれる。うなぎの説明はありがたいけど、「5800円のお値段の値打ちが・・・」って、今回は俺がご馳走する形で、連れに気を使わせないように予約のときに聞いた値段は秘密にしてたんだけどさぁ・・・。



さて本命のうなぎ。

欲張って一番肉厚いのを選んだ。結果、見た目にはご飯が見える貧相なうな重になってしまった。けど結果から言うとやはり食べでがあって十分に満腹した。

このうなぎが絶品。肉厚のため蒸したそうだけど、とにかく柔らかくて驚く。でも柔らかいけど身はしっかりとしている。口に入れてみて、うなぎの香りがすばらしくてさらに驚く。

うなぎの香りって、タレの焦げた香りのことじゃない。うなぎって白身魚だったんだ!白身魚特有の爽やかな軽く透き通るような上品な香りと甘さ。脂は乗ってるけど、舌の上に説得力だけを残して蒸散するように消えていく。

驚いたとしか言いようがない。



高校生の時に生物部に所属していた。3年の夏、なぜか思わぬ多額の予算が下りて使い道に困った挙句、「そうだ!夏だし、うなぎの研究展示をしよう!そして学園祭が終わったら飼育に失敗しました、という理由で打ち上げで食べちゃおう」という悪い相談がまとまったわけ。

計画はとんとん拍子で進んで、学園祭終了後、学校近くの顧問の先生の家にうなぎを運び込んだところまでは良かった。

ところがこのうなぎが暴れるのなんのって。もちろん「素人鰻」という落語も知っていたし、東海林さだお「太陽」の連載でうなぎをさばいた記事も読んでいた。でもここまでとは思わなかった。

まず動くから目抜きで頭を刺しても真ん中に刺さらない。端っこに刺さったら頭蓋骨を砕きながら逃げる。なんという生命力。身をくねらせて、どこに包丁を入れたらいいのか分からない。どこでもいいから、と切ろうとしても包丁が入らない。ぬるぬるして滑るし、弾力があって包丁がはね返される。

顧問の先生の奥さんが見るに見かねて輪切りにしようと包丁をたたきおろすが、それすらも跳ね返す始末。

とにかく生命力にあきれ返った。

最後は意地と根気でなんとか輪切りにしたものの、焼くと表面は焦げ、中は生。とりあえず輪切りの火の通ったところだけ歯でこそぎ落とすように食べ、残りは改めて焼く、その繰り返し。

このうなぎが泥臭くて不味かったのなんのって。トラウマといっていい経験だった。



これ以来、うなぎを食べるたびにあの泥臭さがよみがえってきていた。うなぎが嫌いにもなっていた。

あの時にかけられたうなぎの呪い、食べ物は命であり、遊びじゃねえ、って呪い、真摯にうなぎに取り組んでいる方々に解いてもらった。



共水うなぎを2人前、実家に送っておいた。