夕凪の街 桜の国

「命をつなげていくという本能は生殖本能だけだろうか?」



シネギャラリーで14:55の回。満席。



大雑把に言って「夕凪の街」と「桜の国」の2部構成。

前半は原爆投下から10年ほど経った広島が舞台。原爆の地獄をさまよって背中で妹を死なせてしまったお姉ちゃんの物語。

広島の町も復興して、でもところどころに隠しようのない傷跡があり、フラッシュバックしてくる記憶を封じ込めるようにつくろいながら、平常を装って日常が流れていく。そんな街で、自分は幸せになることが許されてないのではないかとお姉ちゃんが苦悩する。

後半は現代、いい年寄りになった弟とその娘の物語。実はこの娘とお姉ちゃんは似たような傷を抱えているけど、それを知る者は観客以外誰もいない。



お約束の表現が多すぎ。台詞で説明せずとも説明過剰。

枕に大量の抜け毛で原爆症をアピールしたりとか。

「台詞で説明してないのに皆さんよく分かりましたねー、パチパチパチ」みたいな感じ。台詞で説明してないってだけの話で、全然控えめな表現じゃない。

分かりやすいっちゃ分かりやすいが、なんか小バカにされたような気もする。

とはいえ、いい映画なんだ、これが。

まず第一に構成が上手い。原作由来のものなんだろうけど、伏線はりまくりで、しかも全てを回収していく。

ゴルフで超ロングパットがカップに収まるサマを見ているような気持ちよさがある。もっともこのプレイヤーはラインを読みきったんじゃなくて、芸術的なロングパットが決まるようにグリーンを作ったんだけど。



髪留めに象徴されるように、命というものはつながっていくものなんだ。受け継がれた命を持つ俺達は後の世代になにを引き渡すのか、そこを考えさせられた。

被爆地蔵を中心とした風景の移り変わりが印象的だった。バラック小屋取り壊し反対運動があって公園になって。モニュメントが残されていても、その時代を生きていなければそのモニュメントから出来事とか叫びとか、そういったものを感じ取ることは難しい。ただこの映画を見た後にはモニュメントからメッセージを受け取る能力が少しは高まったような気がする。



俺は被爆者についての知識を植えつけようと必死な教育の中で育ってきた世代で、少なくともゆとり世代よりはモノを知ってるつもりだったけど、これが広島の真実なのだとしたら俺は被爆者のことをなにも知らなかったと言ってもいいと思う。人間が生きていく本能として当然の行動だけど、地獄に蓋をする。そしてよそ者が消化しきったものをいつまでも抱え込んでいく。それがよそ者には異質に感じられる。

太平洋戦争についての知識は、全て左翼の教育と右翼の宣伝によって得てきたもの。それでも俺の世代まではまだ身の回りに普通に戦争世代がいて、普通に戦争の話を聞く機会があった。それすらもなくなった俺の下の世代のことを心から心配し、また恐れる。