潜水服は蝶の夢を見る

静岡シネギャラリー左側で14:40の回。客入りは30人ほど。



今年になってからシネギャラリーで車椅子に乗って鑑賞する人とよく会う。車椅子から器用に最前列に乗り移るんだけど、車椅子のほうが楽なようで、予告編が始まって列の端が空いてたら車椅子に乗り移って通路に移動してる。機会があったら列の端の席を譲ってあげてください。



それはさておき、この映画は名編集者として好きに生きていたプレイボーイが脳梗塞に倒れ、左まぶた以外、全身不随になりながらも本を執筆するために命の灯を燃やす話。これが実話だっつーから驚く。



とはいえ全編感動のヒューマンストーリーってわけでもない。微妙に笑わせる場面も多い。時に良識のある人は笑っていいものか迷ってしまうかもしれない。

でも大丈夫。俺も笑ったし、車椅子のおっちゃんも全部笑ってたから。



確かに全身麻痺ってのは極端な例だけど、誰しもがなにかに縛られて、なんでそんなことが出来ないの?って思われるようなことが出来ずに悲喜こもごもあるわけで。それが他人から見たら滑稽だったりしても仕方がない。

必死なときに笑われたらカチンとも来るけど、本人すら笑っちゃうような場面なら笑っちゃえばいいんだよ。



また米仏合作となったことが落ち着きのいい居心地を醸している。音楽でもU2みたいのが案外とマッチしてた。

あと音響と演出もすばらしくて、最前列という位置がたまたまそうだったのかもしれないけど、モノローグの声が真横から出てきて、なおかつ主人公の視点で撮影されているから遊園地のアトラクションのようなヴァーチャルリアリティとも言うべき疑似体験の世界が広がっていた。



私ことながら、俺は物書きを目指していた時期があった。このブログだってその延長の未練という見方も出来る。

でもさー、全身麻痺になって、俺には記憶と想像力がある、と言い切れる強さはないよ。身動きできない自らの状況を「潜水服」になぞらえるセンスも、数万回の瞬きで書き上げる根気も、なにもない。完璧に打ちのめされた。