景気回復と引き換えに失うものを忘れるな

給付金を出すと言えばマスコミも国民も声をそろえて拒否反応を示す
http://d.hatena.ne.jp/kmori58/20081231/p1

どうも給付金への拒否反応が理解出来ないようで。
そのブログを多少読む限り、全ての基準は損得勘定のようで、典型的な経済万能主義者の経済の学者バカに見える。お金があればみんな幸せ、って。
そこのブックマークコメントにも興味深いのがあるので、これを取っ掛かりに少し書いてみる。

id:arn 批判的なコメの数に絶望した。皆さん、そんなに景気回復は嫌ですか? どうあがいても日本にはリフレ策以外の選択肢は残されていないのに……
http://b.hatena.ne.jp/entry/http://d.hatena.ne.jp/kmori58/20081231/p1

景気回復ってなにそれ?食べられるの?おいしいの?(そりゃ社会の上澄みすすってる奴はおいしく食べられるんだろうけどさ。)
給付金をもらえば生活が楽になるの?
生活が楽になるってなんだ?どういうこと?

最低限の生活:首都圏20代男性なら時給1345円必要
http://mainichi.jp/select/wadai/news/20081209k0000m040114000c.html

このレベルの生活が出来るの?
無理だろ?だって戦後最長の景気回復期ですら達してない奴がごまんといるんだから。


景気が回復しても、その恩恵を感じることの出来ない層ってのが存在するのよ。底辺層とか侮蔑されるけどさ。リフレ政策ってリンゴを川に落とすのと同じ。一度底に沈んでくるけど、すぐに浮いちゃって手の届かない水面でぐるぐる回ってる。
景気回復の実感よりも、得た事もないのに喪失感だけを味わってるのよ。2008年前半までの景気回復を多くの人に実感させなかったことが、この国にとって最大の失政だったのだ。


本来あるはずだった人としての生活を得られなかった、そしてこれからも得られる見通しがない、なんという無力感、脱力感、そして絶望。これが社会全体の閉塞感につながっているのではないかと思う。
だって、社会の雰囲気を生み出してるのって常に底辺層じゃん。お祭りで騒ぐのは誰?バブルに浮かれるのは誰?


富の再分配が適正に行われていない社会システムの中で、多少自分の取り分が増えたところで、平等性を求める、人としての心が満たされないと感じる人、それが少なからずいるのは当然のこと。この理屈を自力救済の正当化に使う人もいるだろうし、そこが社会のモラル低下の一端にもなってるのではないか。


リフレ政策だとか、何とか政策だとか、私はそんなことには一切興味がない!
あれこれ改革して問題が解決するような、もはやそんな甘っちょろい段階にはない!
こんな国は、もう見捨てるしかないんだ!
こんな国は、もう滅ぼせ!
私には、建設的な提案なんか、ひとつもない!
今はただ、
スクラップ・アンド・スクラップ!
すべてをぶち壊すことだ!


まぁ、ここまで直接的に言われれば、そりゃあエキセントリックだし受け入れがたいけど、この外山恒一演説を政策で化粧したものが、給付金反対論なんだろうと思う。
民主党はデタラメだ、民主党は日本を壊す、そう言えば言うほど民主党の支持は広がるよ、きっと。
だって「最低限の生活」に届かない景気回復と引き換えに、「最低限の生活」が出来ない身分の固定化を望む愚かな人なんていないんだから。


もうひとつ、行動論として。
人間、計算高くして取れる行動なんてたかが知れてる。いざとなったら命がけで飛び出すもの。命がけで飛び出したらスピードの調整なんか出来ない。
なんでブレーキ踏まないの?って行動したことのない人は言うだろうけど。
追い詰められてとる人間の行動は、必ず行き過ぎる。自分を痛めてでもやっちゃう。
そういう損得感情は、経済の損得勘定では測れないよ。


経済ってのは人間が関わる以上、人間ってものが見えずに政策論だけやってても、投げるボールはあさっての方向だと思うんだけどね。
この辺は政治との関わりになってくる話だから、経済学者の責任は少ないと思う。ただ、純粋な政策論と逆行するからって、他のいろんな事情と絡まった選択を見下ろすのは違うと思うぜ?