三陸3日目

宮古湾温泉マースまで来るときは津軽石駅から歩いたが、朝はバスの便もよく宮古市内へ。
宮古の名勝地、浄土が浜に出るには宮古駅まで出る必要はなく、途中で降りた方が早い。
ただ、今回の旅にはもう一つの目的があって、親族に関わることなので秘密にさせてもらって、話は浄土ヶ浜に飛ぶ。



オフシーズンだけあって人はほとんどいない。なにより寒い。
暖かい日にこんなところでひねもす海を見ていたら幸せだろうとは思うが、残念ながらそういう日ではなかった。


宮古駅三陸鉄道北リアス線のフリーきっぷを買っ1た時に、ちらとイヤな予感がした。財布の中に現金が少ない。コンビニがあったらATMで下ろそうとは思ってたんだけど、なにせ気仙沼からここまで、コンビニというものが存在しなかった。
残金が1000円札2枚と小銭。もっともこの小銭は100円玉が大量にあって、実質3000円ちょい。
田野畑駅から北山崎までバス往復300円×2と久慈の健康ランド宿泊2000円の2600円が必要。銀行?どっかにあったっけか?信用金庫まで戻るか?どっちにしても汽車1本逃すことになる。
一瞬迷ったものの、久慈にコンビニがあることを期待して、北リアス線突入。


田野畑下車。
北山崎へのバスは日曜運休で、今日は日曜日だった!しまった!日本は格差社会だった!

道のりは10キロ、歩けない距離じゃない。
歩くこと1時間、弁天崎。ここから北山崎までは陸中海岸自然遊歩道がつながっている。灯台までは急な登り。これは仕方ない。あれが北山崎だ。

灯台からは急な下り。そして机集落の手前で車道へ。車道をしばらく行って、遊歩道は下に続いていたことに気付く。海岸線をショートカットしていくようだ。しまった。
車道を遠回りすると下から上がってきた遊歩道と合流。
そして上って降りて上って降りて、遊歩道の道のりはまさにリアス式そのもの。
遊歩道ってレベルじゃねーぞ!遊んで歩いたら死ねるぜ、ここ。ちょっと下りで勢いついて、ワーイとか喜んで早足で走ったら100メートル以上の断崖ダイブ一直線とか。



この道なー、左上の方向に続いてるのよ。バンザイしなきゃ通れない幅。
10キロの道のり、5キロ来て遊歩道に入って、2時間経っても抜け出せない。いやはや、とんでもないところに足を踏み入れてしまった。

俺も低山登りはよくするから「どこが遊歩道やねん」って遊歩道もいろいろ歩いたけど、ここは半端ない。
ようやく「北山崎400メートル」までたどり着いたときは午後3時。帰りはおとなしく車道を歩いたとして下手すりゃ6時。真っ暗だろう。
ところがこの先の階段がこうだ。


ここから戻ったらこの遊歩道で日が暮れてしまう。
遭難
の2文字が脳裏をよぎる。
しかし田野畑の役場の奴も、よくも無責任にここまで来て「通行止」とか書けるよな。どうしろと?


まあしかし、だ。よく見るとこのロープは取り外しに便利なように作られている。つーことは出入りすることを想定してる可能性が高い。
本当に危険なら通れないようにがんじがらめにしてあるだろうし、本当に危険の迫ってる場所の警告文はこんなにのん気じゃない。
落石で物理的に通れないのなら、役人という生き物は理屈が好きだから、たいていそうと分かるように通行止めの理由を書くものだ。
過去の経験上、これは通れる状態で、ここから日没前の遊歩道を戻るよりは安全だと判断。
すると階段の下から子供のはしゃぎ声が聞こえた。これにも勇気付けられた。

鉄塔に備え付けられている非常階段のように急な下り階段を降りつづけて、たどり着いたのは波打ち際。海食洞に叩きつけられた荒波から高い浪しぶきが舞い散る。

遊歩道には柵。しかし昔はその先にも入れたのだろう、足場らしきものが波打ち際そのものまで続いている。
上手い具合に派手な浪しぶきの写真が取れない。柵を越えようか、そう思ったときに背筋が凍った。
俺が来た側が通行止になっていたということは、反対側も通行止めになってるはず。しかしここまで通行止め表示がない。つーことはこの先、展望台に近いところで通行止めになってるはずで、展望台はここから見えないほど高いところにある。
俺がくぐった通行止めのあの場所から、さらに下の位置に子供なんかいるわけがないし、はしゃぎ声なんかが聞こえるわけがない。
誘われてるのか。
自然の脅威と不思議をまじまじと見せ付けられて、怖くなって走って逃げ出した。が、階段が急で走れるわけがない。空には恐怖新聞ポルターガイストが舞ってるようにさえ見える。
鼓動が苦しくなってきたところで目の前にベンチが。

このベンチに落石が直撃していたようで、杭が壊されていた。
なんとか通行止め表示が出てる展望台の道にたどり着いたのは3時半。

問題はここからの帰りにさらに2時間かかるってこと。
5時半なら辺りは暗くても、車道にいる限り遭難はしないだろう。
そう確信して歩く、やがて机集落にさしかかる。来るときに遊歩道を見失って飛ばしたところ。海岸線沿いをショートカットしていく楽な道に入る。トンネルをくぐり…。


ここに出てた看板を見て、俺は本当に怖くなって走って逃げたんだ。どのくらい怖かったかと言うと、その看板の写真を撮るのを忘れたくらい。晴れた日でも高波が来ることがあるのでそのときには通らないで下さい、みたいな事務的な看板なんだけど。
俺を待ち受けてあざ笑うかのように、道らしきところで波が暴れてるんだもん。


暗くなる直前に田野畑駅に戻って来れた。
三陸鉄道で久慈着。
駅前にコンビニなんかありゃしない。古墳ノ湯への1時間の道すがら、やっと見つけたサークルK。ATMなし。かろうじてクイックペイが使えるので、ようやくまともな食事にありつけた。