祝うしか出来ない

昨年からブライダルのビデオ撮影という仕事をしてる。
静岡では今回の東日本大震災直後には新郎友人が一卓まるまる欠席とか、そういうことも確かにあったけど、中止やキャンセルもなく、スピーチにちょっと震災に触れる人がいるくらいで、なにごともなかったかのように笑顔あふれる祝祭空間が成り立っている。


だから来週の静岡まつりをはじめとして、静岡大空襲の犠牲者を慰霊するイベントであるはずの安倍川花火大会までも、各種イベントが早々に自粛や中止に追い込まれていく風潮をどうにも信じられない。


イベント業や観光業で、もともと自転車操業をしていたようなところで倒産が出始めているし、自粛ブームが続けば健全な業者だって追い込まれていく。
そう、これはブームだろ。
なんかさー、みんな連帯感を味わいたくて大喜びで、自粛ブームに乗っかってるような気がするんだよね。大喜びで、ね。


ブームといえば節電ブームもそう。節電はすっかり弔意を表す手段になってしまってる。
半旗気取りで消灯か。おめでてーな。
節電ブームで店舗照明が消えて、営業してるのかしてないのか、よく分からん店が増えた。静岡インターそばのステーキガストも中電管内なのに節電でネオンを消してる。
サラダとライスとデザート食べ放題の店内では客が取りすぎたポテトサラダを前に
「もう無理。残してもいいのかなー」
この国は狂ってる。


被災地から少し離れたここ静岡では、今まで通り、一生に一度の結婚式がいくつも行われている。会場では今までの式宴がそうだったように、多くの笑顔があふれている。
その笑顔の集団を撮影しながら思う。誰が自粛を望んでいるのだろう?
仏頂面した、新婦さんの祖父か?深刻そうな電話をしてる、新郎さんの取引先の偉いさんか?それとも話の輪に加わらず携帯をいじってる新郎さんの友人か?


狂った国で俺は今、祝うことしか出来ない。
カメラマンなんだから仕事は撮影であって、決して祝うことではない。でも俺は積極的に祝いに関わる。いつの間にか、それがスタイルになりつつある。


自覚は全然なかったんだけど、列席者の携帯で写真撮ったり、フラワーシャワーで列を作らせたり、いいタイミングで拍手したり、新郎さんの友人と意気投合したり、そういうのは普通しないんだってね。普段入ってる会場と違うところに行って、初めて言われた。
普段の会場では写真のカメラマンがそんな感じでやってるから、それが普通だと思ってた。
でも考えて見ればその会場は写真のカメラマンが所属してる会社で運営してるんだよなー。
まぁ新郎さんをくすぐったりするのは俺ぐらいかもしれないとは思ってたけど。


でもそうやって積極的に祝いの輪に飛び込んで輪を広げていくことで、技術の未熟さをカバーするいい表情が撮れてると思う。そして一つでも笑顔が増えれば、そしてその笑顔が俺の知らないところでさらに笑顔を増やしていければ…

アマテラス 悲しみは誰をも救わない


地上に悲しみが尽きる日はなくても
地上に憎しみが尽きる日はなくても


それに勝る笑顔がひとつ多くあればいい


君をただ笑わせて
負けるなと願うだけ



中島みゆき「泣かないでアマテラス」