プレステージ

6月7日、静岡東宝1階で19:00からの試写会。

時間軸が行き来する部分が分かりにくいけど、ああ時間軸が行き来してるなぁと
思えば、あとは普通に分かると思う。
プレステージってpre-stageだと思ってたらprestigeなんだね。威厳とか偉大とかいう意味。

水槽からの脱出イリュージョンで奥さんを亡くしたマジシャンと、その手首を縛った
アシスタントマジシャン、2人のマジシャンのライバル物語。競うのは瞬間移動のネタ。
瞬間移動のネタの定番は替え玉。消える人と現れる人は同じように見えて実は違う。
しかし両者ともにそれでは説明できない部分がある。しかも片方は舞台下に消えるだけではなく
水槽に閉じ込められて死んでしまうのだ。さらにもう片方のマジシャンはその舞台下に潜り込み、
殺人容疑をかけられてしまう。
命がけのだましあいに見えるが、実は2人ともだましている相手はライバルのマジシャンではなく観客。
その結果、2人ともが思いもよらぬ運命をたどる。時に勝者に見えて敗者、またその逆。

ストーリーが実に良く出来ている。一つだけ空想の産物があるのが引っかかるところだけど
時代背景を考えるとこれも好意的に解釈できる。不思議なものとして納得して、
後はどうでもいいものとして。そういうものの存在が許されていた時代として。

科学と魔術と手品との間に境界線が引かれようとしていた時代、それでもまだ科学の人である
エジソンですら霊界と通信しようとしていた時代。まして下々の人間にとっては、
存在するものと存在しないもののほかに、存在するのかどうか分からないものが
たくさんあったんだろう。そして理屈では存在しないだろうけど、でも存在したほうが
面白そうだ、というものの存在をあえてだまされて信じようとしていたのだろう。
ちょうど俺たちがつい最近まで積極的に存在を信じようとしていた役人や政治家の良心と同じように。

存在しないのに存在してほしいという庶民の夢を叶えてくれる。そこでは共通しているのに
庶民を驚かせ喜ばせるために、ゼニにならなくても命を張れたのはマジシャンだけだろう。
タネへのこだわりに全人生を賭ける美学はあまりにも切なく美しい。
それもこれも、客の喜ぶ顔を見たい、その純粋な目的ゆえ。

なにかのマジックの本でジョークではなく実話として、こんな話を読んだことがある。
すごいマジシャンがいた、出来るマジックはただひとつ、ビールを懐から出すことだけ。
しかし、いつでもどこでも、タネを仕込む暇もなく求められれば懐からビールを出すことが出来た。
彼は寝るとき以外はビールを懐に挟んで生活していたとか。

テスラとエジソンも似たようなライバル物語を繰り広げていたのかも。
このサイドストーリーも面白そうだ。