日乃出湯

函館市湯川町3-2-17
0138-57-8692  

湯の川温泉でも歴史の古さで知られ、テレビや雑誌などでもよく取り上げられる。
外観はやや古めの銭湯。しかし引き戸を開けると21世紀の日本とは思えない光景が広がる。


まず、脱衣所には全裸のジジイが2体ひっくり返ってる。
コンクリむき出しの浴場には全裸のジジイが1体ひっくり返り、湯船の周りに全裸のジジイが4体しゃがんでる。誰も湯船に入ろうとはしない。それもそのはず、お湯の温度は48度。あふれ出るお湯で床が暖められ、しゃがんでるとケツが実に心地いい。

後から来たジジイが手すりにつかまってゆっくりと湯船にしゃがんでいく。ゆっくりなのはジジイだからではない。お湯が波打つと火傷するんだ。全身が沈んでも手すりを離せない。不安だからだ。なにせ命の危機と隣り合わせなんだから、命綱を離せるわけがない。
ジジイは全員常連のようで、そのうち一人は自由市場の魚屋らしい。その手の話題に花が咲いてる。
意を決して俺も48度の湯につかる。

古今亭志ん生は江戸っ子好みの熱い湯を「お湯が噛み付いてくるようだ」と表現したが、その噛み付いてくる歯が見えるようだ。つーか、皮膚が温度を感知するのではなく、物理的な痛覚、無表情ではういられない我慢の限度を超えた鋭痛を感知している。
しかし、皮膚の周りを体温でぬるくなった湯が包むせいか、痛覚は鈍くなってくる。つーか、鈍痛に変わってくる。しかし、少しでも動くと皮膚がはがれそうだ。
石川五右衛門は偉かったよ、実際。

こんなところで茹で死ぬわけにもいかない。皮膚を守ってくれる体温でぬるくなった湯の層をできるだけ壊さないようにゆっくりと体を湯船から抜き取ろうとしている最中。
「じゃあ、あがるか」としゃがんでいたジジイ。それに連れて我も我もとジジイどもが上がり湯をかぶり始める。洗面器が湯船に刺さる度に揺れる湯面。
殺す気か?