鶴彬 こころの軌跡〜「童貞の間に華やかな夢を食べる」

静岡市女性会館アイセル21で15:30の回。客入りは50人ほど。
主催は映画「侵略」上映委員会という、古くから活動している左翼団体つーか、個人。客層の多くはそのつながりのようだ。ちなみに映画「侵略」は20年ほど前の作品

「鶴彬 こころの軌跡」の見所としては、ああ、そういう反戦川柳作家がいたんだね、というだけの話。
その作品をネットで見ることが出来る。
http://www2.nsknet.or.jp/~mshr/asobi/senryu/turuakira.html
「蟻食ひ」なんかはこんな感じ。

・正直に働く蟻を食ふけもの
・蟻たべた腹のへるまで寝るいびき
・蟻食ひの糞殺された蟻ばかり
・蟻食ひの舌がとどかぬ地下の蟻
・蟻の巣を掘る蟻食ひの爪とがれ
・やがて墓穴となる蟻の巣を掘る蟻食ひ
・巣に籠もる蟻にたくわえ尽きてくる
・たべものが尽き穴を押し出る蟻の牙
・どうせ死ぬ蟻で格闘に身を賭ける
・蟻食ひを噛み殺したまゝ死んだ蟻

このほかにも「夜業の時間 舞踏会の時間」なんてのがあって、今で言うなら「サービス残業 ホテルバー」ってところだろうか。


とはいえ、鶴彬の姿ってのは決してこの映画や日本共産党が喧伝するような、反戦作家としての顔だけを持っているわけじゃない。
もともとは「燐寸(マッチ)の棒の燃焼にも似た生命(いのち)」なんて中学校の文集全開みたいなところから始まって、つーかこの頃は中学生だけど、「菩提樹の影に釈尊糞を垂れ」みたいな中2病の高校生全開にしてから「性慾の仮面ぞろぞろ二十世紀の街」「童貞の間に華やかな夢を食べる」みたいな非モテコンプレックス全開、と、15歳から28歳までの若者としての時間をひたむきに生きた姿勢が、その作品から実に魅力的に感じられる。


で、映画なんだけど、この映画からはなにも感じ取れない。あちこちにあるという句碑や記念碑の説明文みたい。つーかこの映画も最初からそういった記念碑の一つに過ぎない。それで十分に役割を果たしてるのだと思う。
俺はこの映画で鶴彬という存在を知って、多分どこかでその川柳を引用する機会があるはず。そういったようなことのために作られているのだろうから。