居酒屋問題〜店xs客ではなく、店長xs賊軍の対立構図

よしもとばななさんの「ある居酒屋での不快なできごと」
http://www.enpitu.ne.jp/usr6/bin/day?id=60769&pg=20090808

要するに
よしもとばななが、チェーン居酒屋で飲み会をやってて、ある事情でワインを持ち込んで、店員の姉ちゃんに一言断ってこのワインをあけた。すると店長がそれを見つけて店員の姉ちゃんを叱責した上に、よしもとばななに説教をした。
よしもとばななは、融通が利かないような店長が経営してる居酒屋だから客が入らない店なんだよ、と思った。
以上のエピソードを筆者は本で読んで、いろんな立場でいろんな見方があるんだろうな、と。


そしてあちこちでいろんなブログで言及されて、いろんなコメントがついていて、
http://b.hatena.ne.jp/REV/%E3%81%B0%E3%81%AA%E3%81%AA%E3%83%AF%E3%82%A4%E3%83%B3%E6%8C%81%E8%BE%BC/
この辺に上手くまとまってると思う。


で、俺が一番最初のエントリを読んだときには既に店長叩き、よしもとばなな叩きという、いかにもオタクが好きそうな単純二元論での罵倒合戦が始まってしまっていて、どっちが正しいとか誰が悪いとか言ってる奴らはバッカじゃねーの?と思って

誰も間違ってない不幸を指摘したエントリ。間違ってるのは間違ってると叫ぶブコメ
http://b.hatena.ne.jp/entry/www.enpitu.ne.jp/usr6/bin/day?id=60769&pg=20090808

というコメントをつけたわけだけど、でももう少し正確に言うと決して登場人物の誰もが間違ってないわけじゃない。全員がどっか社会人として許容される範囲内で間違いを犯している。


一遍に考えるとどっちかの立場に立って一方的に叩いてしまいがちになるので、問題をひとつずつバラして考えてみる。


1)よしもとばなながチェーン居酒屋で飲み会をやった。
因果応報論で行けば、そもそもこれが最大の間違い。よしもとばななともあろう者がチェーン居酒屋で飲み会をやったというのがまず驚きなんだけど、それはいいとして。


2)ある事情でワインを持ち込んだ。
このあたりから、最初からそういうことをするつもりならよその店に行け的なばなな叩きが始まる。とはいえ、この時点ではまだなにも問題は顕在化していない。


3)店員の姉ちゃんに一言断った。
まず、このOKを出した姉ちゃんに功罪ある。功はもちろん、お客様に奉仕したということ。罪は後述するマニュアル違反。
一方でよしもとばななにもこの時点で功罪ある。断りを入れたという点では功だけど、やはり後ろめたいことをしているという自覚はあって「それで、お店の人にこっそりとグラスをわけてくれる? と相談した」「それであまりおおっぴらに飲んではいけないから、こそこそと開けて小さく乾杯をして」ということにも現れている。
つまりよしもとばななは持ち込み=(小)悪だという認識を持っていて、店員の姉ちゃんにその片棒を担がせたことは罪といっていい。


4)店長が見つけて、店員の姉ちゃんを叱責した。
マニュアルに基づいた組織運営という観点からすると、店員の姉ちゃんのマニュアル違反の誤りを正すことは必要。その手段として叱責を用いていて、ここがまず店長叩きの第一の焦点になってる。
この叱責にも問題が2種類あって、まずひとつは叱責という手段、そしてその結果としてよしもとばななに聞かれて不快にさせた点。


部下の管理監督をどうするべきかなんて、数行で収まる話じゃないし、ここが問題になってる風でもないので、置いておく。
問題は、客前での部下への叱責を聞いて不快になった経験を持つ大勢の人が拒否反応を示した、ということ。
そういえば「孤独のグルメ」でも主人公の井之頭五郎がアジア系の店員を罵倒した店主にブチ切れて、店主にアームロックをかますという場面があったな。
モデルになった店って、もともとそれで有名だったらしい。
http://ameblo.jp/oharan/entry-10026295450.html


さて、ここでひとつ、なぜ店長はばななの前で店員の姉ちゃんを叱責したことが責められるのだろうか?を考えなきゃいけない。ここを責める人の共通認識として、よしもとばななは客である、という前提がある。
しかしこの叱責の時点で、この前提は崩れているのではないだろうか?もう、来なくていいよ、お前ら、客じゃない、って。


5)店長がよしもとばななに説教をした
もはやここにある構図は、店vs客ではなく、店長vs賊軍の対立構図のように見える。
傍若無人(つーか実際のところほかの客はいなかったわけだが)な無法者集団&内部密通者という大軍から、店の秩序を守ろうとする孤高の正義の店長との、いわば聖戦のようになってはいなかっただろうか。
これは必死の戦いだよ、なにせ相手は3人寄れば姦しいとも言われてるおばさん集団、しかも酒が入っていて、そのうち一人は日本を代表する文筆業という核兵器クラスの地雷を踏みに行かなきゃいけないんだから。この店長がどんな気持ちでばななテーブルに向かったのか、察するに余りある。
必死になっちゃってしたことなんだから、ああすりゃ良かったこうすりゃ良かったなんて、後付けの気楽な理屈で叩いてやるなよ。


6)だからこの店は客が入ってない
そこれそ余計な世話だよな。チェーン居酒屋だって素人の思いつきレベルのことなんざ、とっくに考えてるっつーの。
お客様にNOと言いません、なんてナンバーワンホテルみたいなことをすべての居酒屋で出来るわけじゃねーだろ。それで儲かるんだったらみんなやってるっつーの。それで儲からないから、そこからさらに取捨選択をしてる。
これは単純にサービスとコストの問題だけじゃなくて、組織運営の問題でもあるわな。安い人件費で組織を回すには、どうしたらいいのか、この店長はその答えのひとつなわけ。
そして、この店長が会社やマニュアルが期待する店長の姿かどうかは、また別の話だぜ?もっとも店長として君臨させてるんだから、会社として容認できる範囲内だと判断してるんだろうけど。


いずれにせよ、よしもとばななは客としては切り捨てられてるように見える。
そこに、店が客を選別するということを考えたくもない、100%お客様の立場の人が、接客業の矜持を持ち込んで暑く語り始めると、今日みたいに暑い日がさらに暑苦しくなるように感じられる。