「地球の歩き方」の歩き方

「地球の歩き方」の歩き方
「地球の歩き方」の歩き方
新潮社 2009-11-18
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地球の歩き方」は学生のころからずいぶん熱心に読んだものだった。まあ、読むだけだったけど。
読み物として優れてたんだよなー、写真でしか知らない場所の実体験が生の声としてつづられてた。


地球の歩き方」で面白かったのは、海外で泥棒や詐欺みたいな犯罪に巻き込まれた実話とか、悪徳商法に引っかかった体験談とか。
一番印象的だったのはチベットの未開放都市(外国人立入禁止)に入ったら中国公安に捕まって、その晩に同じ未開放地区の山中で高山病にかかった日本人が運ばれてきて、通訳として病院に向かったけど既に意識がなくて、肺気腫で死ぬのを看取った話。
他にはホテルでお湯が出なかったとか、虫が出たとか、どの店は日本語が通じるとか、物乞いがしつこいとか、お奨めの朝食とか、客引きのタクシーに乗るとどうなるとか。ちょうど今でいうと、旅行ブログの派手な部分だけを抜き出したような感じ。


最初からバックパッカーのバイブルとして登場したものだと思ってたら、どうもそうじゃないらしい。1970年代に個人向けの手配旅行会社のパンフレットとして始まったものだそうで。
旅行会社としてリクルートと競い合った経緯から面白くて、行動、実現、障害、分析、計画、行動、この繰り返しで進化してきた「地球の歩き方」の歴史をたどっていく内容。
ライバル誌が出て来たり、海外情勢の変動があったり、日本人の海外旅行観の大きな変化があったり。ブランドを作り上げていた「バックパッカーのバイブル」としてのイメージが、猿岩石に始まる海外「貧乏」旅行ブームの影響を受けてお荷物になっていったり。
そのたびに、真摯に受け止めて、性格に分析して、的確な変革をしていくドラマについつい引き込まれてしまった。厚い本だけど一気に読める。


俺が読み物として「地球の歩き方」を読まなくなったのは、読み物として面白くなくなったから。「地球の歩き方」がダメになったと思ってたんだけど、そうじゃなかった。むしろ読み物になるような情報があることの問題ってのがあったわけだ。
青い小口にはバックパッカー同士の絆という意味と、色落ちの苦情と、強盗の目印というリスクがあったという話とか、読んでるだけで「地球の歩き方」の製作現場にいるような気になった。
ちょうど「地球の歩き方」を読んでるだけで、その土地にいるようになったような感覚で。


「キミにこういう興味があれば、ここに行くのもいいだろう」的な物言いに心当たりがあれば、キミはこの本を読むのもいいだろう。