電波の城

立花哲人が死んだぞ!

ええ?世間は立花哲人があんな自殺の仕方で死んで、それでこんなに平静でいられるのか?!いやー、全く驚いた!意外な展開!



といっても世間的には立花哲人って誰?って話なんだろうが、超有名なニュースキャスターだよ、「電波の城」というマンガの中で。
この「電波の城」ってマンガが近年稀に見るほど実によく出来ていて、なのに世間ではまったくのノーマークなので、とりあえず俺が騒いでみよう、と。

電波の城 15 (ビッグ コミックス)
電波の城 15 (ビッグ コミックス)細野 不二彦

小学館 2012-03-30
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作者は細野不二彦。俺が子供の頃から活躍してる人で、その時代で言えば「さすがの猿飛」「Gu-Guガンモ」、最近でいえば「ギャラリーフェイク」あたりが代表作。

バブル以降は特技で生きる世界の人間模様をスタイリッシュに描くことが多い。



この「電波の城」は地方FM局女子アナだった主人公が上京し、中央のテレビ業界を生き抜く姿を描くサクセスストーリー…と最初は思ってたんだけど、だんだん様子がおかしくなってくる。そして後から読み返して気づくのは、この構成は当初から緻密に計算されていたことだ。

初期にこそ、主人公の天宮詩織が地震を予知して転倒対策器具を外してライバルに重傷を負わせる場面こそあるものの、以後はあくまで裏のある「人間」として、その強さも弱さも矛盾することなく描かれている。



だんだん明かされてきたその裏とは、ネタバレで書いてしまうとオウム真理教をモデルにした新興宗教団体レムリア教団の幹部の娘で、信者全員が集団自殺したと思われている中で唯一の秘匿された生き残りであるということ、それとは全く別(と思われる)のところで大きな力を持つ暴力団とのつながりがある、ということ。

主人公が成り上がっていく過程で、その裏の部分は最大限に利用される一方で、天宮詩織は裏の部分を持つがために何度となく苦しめられる。


その最大の危機をもたらした男こそが立花哲人だった。言うならば天宮詩織にとってラスボスといってもいい存在。

ニュースショーのアシスタントに上り詰めた番組でのアンカーであり、かつ優秀なテレビマンであり、ジャーナリストであり、なによりレムリア教団に食い入り、天宮詩織の実母である教団幹部に惚れ込み、教団崩壊のキッカケを作ったのだから。

しかし必死になった天宮詩織の前に、その正体を見抜けず完全敗北、失脚。とはいえ立花哲人の失態失脚は過去にもあり、ここからどう展開するか、と思った矢先の自殺!

まさに日本中を揺るがす急展開!




というのが「電波の城」のここまで。



で、この作品のなにが面白いかといえば、レムリア教団=オウム、とか、ソルジャー・コロッセアム=K1、とか、丸の内テレビ=フジテレビ、とか、モデルがはっきりしていてリアル感がパネエことが1つ。

さらに忘れられがちな、それぞれその中にいるのが人間だということが余すことなく描かれているということ。

そして、鬱にさせられる過去とバッドエンドを予感させる伏線の中で、必死に生きる姿の象徴として挟み込まれる純情というべき恋愛シーケンス。このバランスが涙をさそうほど絶妙なのよ。