食堂かたつむり〜初見では話は分かっても意味がわからなさそう

静岡東宝1階で12:30の回。客入りは20人ほどと心許ない入り。
エンドロールで客が立たない映画ってのはいくつかのパターンがあるけど、これは客がどうにも納得出来ずに席を立てなかったんじゃないかと思う。


話とすれば、失恋のショックで失語症になった柴咲コウが折り合いの悪い母親の元に帰り、食堂を開いて成功するんだけど母親が死んじゃう、という実にシンプルなもの。
この作品には主人公が失語症でしゃべれないという制約があって、原作は主人公のモノローグで進んで行く。ここを映画でどうするのかと思ったら・・・ほぼまるまるぶっ飛ばした。
すげー決断だ。たぶん映画で初めて見た人にとっては、話はわかるけど意味が分からない映画になってると思う。

まずね、キーになってるフクロウがいるんだけど、フクロウの鳴き声を柴咲コウがどう思ってるのかの説明が不十分だから、最後の仕掛けが全然響かないと思われる。
さらに、メニューがなにを考え、どういう意図で組み立てられてるかがほとんど描かれてないから、ただ単に「美味しいものを食べて幸せになりました」レベルに貶められてる。
もちろん主人公の心の動きみたいのも明示的にはまったく描かれていないんだけど、ここは柴咲コウの目力ひとつという力技で強引に乗り切ってた。


最後のパーティでペットとして飼ってる豚を食べちゃうんだけどさ、これも原作だときちんとそこに至るまでの事情と経緯、伏線があるのに、映画では完全無視。
その事情や経緯も、それをどう評価するべきか、というのは話が別よ。でもそもそもこの映画じゃなーんにもなく、ただ話の面白がらせに食べちゃったような構成だもんなー。まいった。「食べちゃおうかと思ってるのよ」で失笑が漏れてたもん。


このペットの豚を食べるシーンを始めとして、原作のamazonのレビューがしっちゃかめっちゃかな状態になってる。

食堂かたつむり
食堂かたつむり
おすすめ平均
starsこれはちょっと…
stars初めて途中で読む事をやめた本
stars惜しい本…。
starsエッセイなら良かったかも
stars読書を進めるスピードと感覚が不思議な本。読後感も独特。お勧めできる小説。

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この原作は人を憐れむ余裕のある人か、逆に人から憐れまれるような立場の追い込まれた人や体調が悪い時に読むと、実に心に響く作品だ。
ご都合主義でベタで薄っぺらな世界観の上に成り立ってて、一方でどこか「感動しました」的でメルヘンでロハスでスイーツな魅力に溢れてる。その魅力の部分を映画では「嫌われ松子の一生」形式で引き立ててるのもまた賛否両論ありそう。


ただ、原作を読んで映画を観ると、この映画でやろうとしてることは伝わってくるんだ。
要するに多くの生命というものが私たちをやさしく包んでくださるのだから、私たちも優しくそして強く生きていきましょう、と。その象徴的なシーンが、最後に柴咲コウがオカンと一緒に豚に乗ってメルヘンチックに空を飛ぶ場面なんだろうし、あるいはずっと影から見守っていたオカンのイコンである白い鳩を食べることで、オカンの望んでた娘の幸せが訪れるとかいうことなんだろうけどさ。
でもそういう重いテーマをペラペラのちり紙で包んで振り回したら、そりゃ破れるわ。モノローグ中心の原作ならごまかせてた部分が、批判を浴びそうな豚の屠殺解体場面から逃げたあたりの腰の引け具合からも見て取れる、都合のいい部分のつまみ食いをしてしまったがゆえにかえって目立つ結果になってしまった。


非常に残念。
しかしここに一つだけ希望があることをさっき知った。
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単なるコミック化ならなんとも思わないんだけど、鈴木志保が描くとなれば話は別だ。
ちなみに本ブログのタイトル「NOW HERE」も鈴木志保の「船を建てる」のエピソードのひとつに由来してる。
http://ameblo.jp/bon-appetit-chocolat/image-10448749254-10398072433.html
やっぱこういう描き方をするよなー。期待を裏切らんわ、きっと。