この国は起業家を育てられない

ある公的な起業支援を受けてる60代の方の話。
営業案内なんかのホームページが必要だ、ということで某自治体の外郭団体である某機関に相談したところ、「ITの先生」なる人を派遣してくれたのだそうだ。その指導に基づいて、Wordでファイルを作成し、htmファイルで保存して、FTPでアップロードするまで結構な時間がかかってた。つーかFTPでアップロードするあたりはFFFTPをダウンロードするところから俺が付いて見てたんだけど。


ところが、なにせWordで手作りしちゃってるからデザインは素人丸出しだし、俺が設置したメールフォームにリンクを張るのだって、どこをどう直していいのか、Wordを使わない俺にはよくわからん。そもそもhtmlファイルをテキストエディタで開こうにも文字化けしやがる。つーかそもそもhtmlファイルじゃなくてhtmファイルだということに気づかなかったからファイルが重複して混乱した。


実はここに、この起業支援の問題点がいくつか浮かび上がってきてる。この男性が求めたものと支援された内容との間には大きなギャップがあった。
つまり、「営業案内のホームページ」が必要だったのに、「簡単なhtmlファイルの作り方と公開の方法」が与えられたわけ。にも関わらず、誰もなにも問題をフィードバックしない。これが日本の公的な起業支援制度だ。


この問題をもう少し解きほぐしてみる。
まず支援側の問題として挙げられるのは、はたしてこの「ITの先生」が適任だったのか、ということ。
必要だったのはweb制作の専門家じゃない。どういうホームページを作って、どういうSEO対策をして、どういうプロモーションをして、それをリーズナブルに行うためには、どういった業者をどうやって探したらいいのかをアドバイス出来る、ネットを使ったプロモーションの専門家だったはず。
現に本人はある程度の予算を使うつもりでいたわけだし。


そもそも15年前ならともかく、今の時代にワードで作ったホームページで商売をさせよう、という感覚を持ったような御仁を「ITの先生」として起用することに、なんの疑問も抱かないこの外郭団体の本気度を疑う。
ないよりマシ程度の、ワードで作ったようなデタラメなhtmlで構成されたホームページが、検索エンジンでどんな扱いをされるか、それがどれほどの悪影響のあることなのか、知らないのか、見て見ぬふりしてるのか。
もうひとつ、支援される側の問題もある。つまり、自分に必要なことはそういうことではないと気付く力、それを主張して必要なものを求める力に欠けている。
唯々諾々と大量の時間と労力を使ってhtmlファイルの作り方を勉強してるようじゃ、先が思いやられるのも確か。
だとするならば、その部分の指摘なり、起業家としての考え方の教育なりが必要なわけで、そこを支援することこそがもっとも必要なことなんじゃないだろうか。
やっぱり支援側の問題なんだ、これは。


大なり小なりこんな出来事はいくつもある。
俺がそれを書いたり口にするたびに、税金を使って支援してもらってるだけありがたいと思え的なこととか、お前が支援されないからって嫉妬して批判するな的なことを言う衆が湧くんだけど、それは明らかにオカミにお貰いをもらってる乞食の発想。
俺たちが納めた税金、社会の役に立とうとするときに使われなくていつ使われるんだ?


何回も書いてるけど、結局この国の起業支援というものは、新しい産業が必要です、その育成のためには予算が必要です、その予算は俺たちとコネのある仲間内で使います、支援をしたというアリバイを作りました、あとのことは知ったこっちゃありません、と。
必要なところにゼニが回らなくても、支援機関に相談に来て仲間にならないのが悪い、と。
その結果が

雇用調整助成金の申請は社員数300名以上では48.3%が既に申請を済ませているが、社員数1〜5名の会社ではわずか0.9%であった。
雇用についてのアンケート - iMiリサーチバンク - 自主アンケート・調査結果レポート

社員数1〜5名の会社で、雇用調整助成金みたいな、簡単で小難しい制度を調べてるほど暇な衆がどんだけいるんだよ?それだけ余裕のない衆のところにゼニが回んねーシステム作って喜んでやがる、クソどもが。

ボトムアップ社会実現のためにもベーシック・インカムが必要 - NOW HERE

って言われることになるわけだ、俺に。

Kauffmanの調査担当VP Bob Litanは、起業家は育てられる、という明白な結論を得たと言っている。鍵は、「教えるべき瞬間」――すなわち起業家がベンチャー企業を起こそう、あるいは拡大しようと考えた時――に教育を施すことだという。

起業家を育てることはできるか? | TechCrunch Japan

残念ながら日本で必要なのは起業家への教育ではなく、起業支援をする組織への教育だ。すなわち起業支援をする職員が起業を支援しようと考えたときに教育を施すことだ。
そんな国で起業家なんか育てられるわけがない。「親はなくても子は育つ」的な起業家が存在するのみ。


そりゃそうだ、リスクを取りに行けないから支援してる衆が、リスクを取りに行ってる衆に出来ることなんか限られてる。
そういえば先日も、とある静岡で有名な起業支援組織の人が、ちょっとリスクのある話を持ちかけられて、ちょっとのリスクも背負いたくないことを理由に遁走した、という噂を聞いたっけ。
その噂が正しいなら、私も大会社を辞めてリスクを取った一人です、みたいな顔はしないで欲しいな。