おいしいコーヒーの真実


静岡シネギャラリー右側で17:20の回。客入りは30人ほど。
これはひどいプロパガンダ。あるいはタチの悪い広告。
要するにフェアトレード商法のプロモーション活動。静岡でもその手の店のイベントと連動してる。
http://press.eshizuoka.jp/e201418.html


徹底してフェアトレードに都合のいいことしか描かれていない。
「先進国が中間搾取をしているからエチオピアのコーヒー農家は貧しい」というミスリードを意図的に行っている。
フェアトレードを訴える映画がフェアに作られてない、ってどういうこと?


30年前に比べてコーヒーの価格が下がった、この映画ではいう。(実際のところはファンドマネーがコーヒー先物市場に流入して暴騰したんだけど、それは撮影後の話だろうからおいておく。)
そしてコーヒー価格が暴落した原因として、国際コーヒー協定の輸出枠制度が崩壊し、ニューヨーク市場に取引が集約されてしまったことを挙げている。巨大資本が不当に買い叩いている、と匂わせている。
しかし実際のところはそうではない。


そもそも国際コーヒー協定が出来た経緯を理解する必要がある。この協定が最初に出来た時、共産主義国は参加していなかった。コーヒー価格を高値で買い上げることによりコーヒー農家にゼニをバラまき、共産化運動の波を防ぐという側面があったためだ。


しかし冷戦構造が崩壊し、共産化の脅威がなくなった以上、高値でコーヒー価格を維持する必要がなくなり、完全市場主義に移行した。さらに旧共産圏のベトナムがコーヒー産業に参入、世界第2位の生産国にまでなった。エチオピアはじめ生産国も一部を除いて生産量を増やした。
つまりコーヒー市場全体が生産過剰になってるんだ。だから価格が下がってる。
はっきり言ってコーヒー豆栽培は死んだ産業になってしまった。いうならば補助金で成立していた産業が、補助金を打ち切られたわけで、そもそも産業として成立するわけがない。


まずこの市場環境が一切描かれていない時点で、この映画の信憑性というものを疑うべきだ。捻じ曲がったエセ環境保護活動と似た臭いがする。
フェアトレードこそが死んだ産業に農民を縛りつけ、苦しめているという批判的な立場から書きたいこともあるけど、映画の話にふさわしくないのでやめとく。
ただこの映画は、フェアトレードの是非以前に、映画として実に卑怯な構成になっている。


俺は大資本による搾取の存在を否定するわけでも、その搾取を肯定するわけでもない。しかしその資本による搾取や格差問題を訴えるなら、たとえば次のような卑怯な構成をするべきではない。その点でこの映画は最悪だ。


1)援助物資を受け取ることはプライドの問題として受け入れられない、と描かれている。
しかし指摘したとおり、従前のコーヒー産業自体が援助だったし、フェアトレードコーヒーだって援助。見えなければいい、って問題か?
で、見える援助物資には「USA」という3文字が表示されている袋を意図的に使用。


2)コーヒー栽培の代替としてチャットという麻薬が栽培されている風景を映し出す。
コーヒーだって麻薬だろ、というツッコミ方もあるんだろうけど、もう一方向。
チャットは大麻同様に依存性のないもので、エチオピア国内では合法的な存在。これを違法化している国もあるんだけど、コカのようにブラック産業として成立する可能性があるのかを考える必要がある。
チャットに関する情報が少ないのでチャット転作の是非については結論は出さないけど、ただ「麻薬=悪い」という短絡的なレッテル貼りでフェアトレードコーヒーを正当化しようという方向は問題がある。


3)WTOに関する描写もおかしい。
WTO自由貿易を推進する組織。なのに先進国は食料防衛の観点からも食料の保護貿易を続けようとしていて、アフリカ諸国はその撤廃を求めている。なのに先進国はさまざまな手を使ってそうはさせない。卑怯だ。そこまではいい。
これ、コーヒーと何の関係が?コーヒーはとっくに自由貿易ですがなにか?ただの欧米=悪の印象操作。


4)そもそもこの映画のチラシからして数字のトリックを使っている。
公式サイトトップページにあるコーヒーカップの図でもあるんだけど。
スタバで飲むコーヒーに払うゼニのうち、農家の取り分は1%だと。あとたった1%だけ増やしてやれ、たった3円だろ?と。
飲む奴にとってはそうだ。しかしコーヒーショップはどうか?コーヒーの原価率は2割程度。飲む奴が払ううちの1%は、ショップが払ううちの5%にも相当する。原価の5%は「たった」じゃない。産業を上流にさかのぼるほどこの数字は逆進していく。
だいたい考えてもみろ、日本で売られているフェアトレードコーヒーは「たった3円」高いだけか?


とにかく一度、「すき家」でフェアトレードコーヒーを飲んでくれ。このまずいコーヒーになんでこんなゼニを払うのか、悲しくなってくるから。
話はそれからだ。
ちなみに俺はドトールのヨーロピアブレンドが好き。
このブレンドが生み出されるまでの苦労が「先進国の浮かれた姿」に見える人にはコーヒーを飲んで欲しくないんだけどね。