誰も守ってくれない〜2度見ること推奨


静岡東宝1階で17:00の回と19:20の回。客入りは20人ほどと10人ほど。
入替なしなので続けて見た。
この入替なしが七間町の映画館街のいいところなんだけど、この東宝は持ち物検査をやるのでイヤなんだよな。危険物チェックじゃないよ、飲食物の持ち込み検査。
今日なんかはジムの着替えを持っていったんだけど、お前ら、そんなに俺のパンツを見たいのか?!


そんなことをしても持ち込む奴は持ち込むもので、売店で売ってないようなセンベイとかスナック菓子をバリバリボリボリ食う音が響いてたわけだが。
ところが始まってすぐ、この音がピタリとやむわけよ。
このオープニングが美しくてね。とても音なんか立てられない雰囲気。


主題歌がリベラの「あなたがいるから」。このリベラってのは少年合唱団らしい。
これを再生しながら読んで、読み終わったら最後にある予告編を見て欲しい。
http://ru.youtube.com/watch?v=uwDRZMoJtkk
まず、この曲が丸々一曲流れる。
その間、妹が送る楽しい学校生活と、殺人犯である兄を逮捕しに自宅に押しかける警察が、交互にサイレントで映し出され、そして最後にタイトルが浮かび上がる。
これだけで泣けるよ。


俺は裁判傍聴をよくするんだけど、傍聴席で被告人の家族をよく見る。
誰からも注目されていない事件でも、家族は、ああだ。
まして世間の耳目を集める事件だとどうだろう。


突然放り込まれた現実に、まず対応できないだろう。そもそも理解出来ないだろう。
その中でも手続きは進む。
加害者宅に市役所や教育委員会の人が来て、離婚と婚姻の手続きで姓を変更、就学義務免除、そして引越しのような家宅捜索。
自宅の周りはマスコミと野次馬が取り囲み、電話やインターホンが鳴り続ける。
このあたりのエキストラの使い方とか、現場の熱が伝わってくるようで、実にいいんだよなあ。


事情聴取は保護も兼ねて家族をバラバラにして。妹役の志田未来を守る刑事が佐藤浩市
親戚宅もマスコミが先回りしていて、佐藤浩市の部屋に連れ込む。
この時点で志田未来はまだ現実が全然わかってなくて、自宅に置き忘れた携帯を見られたら死んじゃう、とかのんきなことを言ってる。なぜ自分だけがこんな目にあうの!と叫んだり。


そして佐藤浩市がかかる精神科医の家を経て、佐藤浩市の知り合いの西伊豆のペンションへ。
このペンションのオーナーが、実は殺人被害者遺族。子供を佐藤浩市の目の前で殺されてる。
ここまできても志田未来は全然心を開かない。


この2人を追うのがクソ2ちょんねらーどもと新聞記者。
この新聞記者は子供がいじめで不登校、学校がいじめたガキをかばってることにムカついていて、税金で加害者遺族を保護することに反発している。加害者家族は死んで償えとまで言う。


柳葉敏郎演じるペンションのオーナーは、毎年手を合わせに来る佐藤浩市を好意的に受け入れてるんだけど、でも実際は割り切れていない。そしてこの事件の概要を知ってブチ切れ。
佐藤浩市は妻娘と別居中。仲直りの旅行の予定が迫ってるのに戻れない。でも家族の縁は辛うじてつながってる。それを知った家族の絆が壊れた志田未来は、追いかけてきた彼氏と脱走。
しかしこの彼氏が実は2ちょんねらーの親玉だと判明。
そして物語はクライマックスへ・・・。


つー感じで、ほぼあらすじを書いてみた。
それには理由がある。
2回見て、初めて分かったことが結構あるのよ。
見ながらあらすじを把握する行為は、この映画の理解を妨げる、そう確信した。


とにかくまずな、役者が全員神なんだよ。特に柳葉敏郎
この人、いつからこんなにいい役者になったの?
佐藤浩市が「この子も事件の被害者なんです」って言うんだけど、このときに実はブチ切れてるんだ。でも笑顔。この、ぶち切れてるのに笑顔を作ってる、ってのが、作り笑顔じゃないのに分かるんだよ。これ、すげーよ。
志田未来も、彼氏が信用できない、ってのを薄々感じ始めるんだけど、このあたりの表情の変化ってなかなかの見もの。ホテルの部屋で別れる直前に、カメラの角度的に片目だけ映してる、その強さと言ったら!


脚本もよく出来ていて、モントリオール世界映画祭の最優秀脚本賞を受賞したのもうなずける。
たとえば、佐藤浩市が妻子と別居して離婚しそう、って話。この映画の本筋と全然関係ないし、妻子は写真に見えるだけで姿は見せない。
一見どうでも良さそうだけど、実はこの流れがこの映画の柱になってる。
イムリミットを提示することで時間を意識させる効果もあるけど、なにより一番効いてくるのは、結局佐藤浩市は仕事が終わったら帰っちゃうんだよ、って部分。
志田未来佐藤浩市に自分との共通点を見出して、べたっと頼りかけたところに冷や水を浴びせて、結局のところ「誰も守ってくれない」というテーマを貫いてるんだ。


この映画は佐藤浩市志田未来を守るって内容の映画じゃない。
家族を支えに、強く生き抜け、って内容なんだ。


演出に関しては、ちょっとどうかな、と思う場面が多かった。
どうせ車を走らせるなら、ついでにカーチェイスさせよう、とか、どうせネット社会を描くなら、ついでに叩いちゃおう、とか、そういう余計な色気のせいで大分損してるよ、この映画。
この色気がまた、いちいち神経を逆なでするしな。


どうして最初の真摯な描写を、最後まで通せないかねえ?
本当にそのことが残念でならない。
http://ru.youtube.com/watch?v=QYmtyORm238