いけちゃんとぼく〜絵本と映画だけでは語られたくない

静岡ミラノ2で6月20日19:50の回。客入りは15人ほど。
先週「レスラー」を見たときに

1年もほぼ中盤に差し掛かって、今年公開の映画の残りのラインナップを見る限り、今年一番の映画でほぼ確定だと思う。
http://d.hatena.ne.jp/RRD/20090616/1245172217

とか書いたけど、わずか4日で撤回することになるとは思わなかった。今年一番、いや、この5年ほどを通じてもっとも印象的な作品となった。
ここまでツボにハマったのはシャーリーズ・セロンの「モンスター」以来のこと。

テレビ静岡の「ザ・ベストハウス123」の“絶対泣ける本ランキング”で第1位を獲得したそうだけど、原作はそこまでそうじゃないと思うんだよなー。
西原理恵子の絵本。この人は白サイバラと黒サイバラがあるけど、白サイバラの代表作。
西原理恵子は「ちくろ幼稚園」がヤングサンデーに連載されていた時から読んでるから、もう20年以上になる。
前後してパチンコにハマりはじめて、パチンコ雑誌を読むようになったら、そこに西原理恵子がいた。
とか、そんな話を書き出すとまとまらなくなりそうだからやめておく。


「いけちゃんとぼく」という映画、確かに原作は絵本の「いけちゃんとぼく」だ。

いけちゃんとぼく
いけちゃんとぼく西原 理恵子

角川書店 2006-09-01
売り上げランキング : 21

おすすめ平均 star
star読み始めてすぐに、号泣!
star“いけちゃん”は何を私たちに何を語りたかったのだろうか?
starフェミニストでなければ・・・。

Amazonで詳しく見る
by G-Tools

でも絵本1冊で1本の映画を作れるほどのボリュームはない。そしてこの絵本の世界を描く上で、この絵本自体はある意味たいしたものじゃない、ということがこの映画のプロモーションからも見て取れる。





この予告編からモロバレなんだけど、いけちゃんの正体は、ヨシオが年をとってから死ぬまで数年だけ一緒にいた池子というおばあさん。死ぬ前に、好きだった人の子供の頃を見たい、という願いがかなっていけちゃんという、いわばメーテルのような子供の頃の幻影として降臨した。
これは絵本では泣き所として最後に明かされる話だけど、映画では予告編でも、そして本編でも最初に明かされる。


その意味するところは、この映画は原作の絵本だけを映画化したのではないということだろう。
この映画には20年読んできた俺が知ってるサイバラの、一番伝えたがっているであろうことが描かれている。
そりゃそうだ、なにせ大岡俊彦監督

俺は25年来の西原ファンなので
http://cinema-magazine.com/program/?n=1822

だからこの本が西原理恵子の魂の叫びだということが分かってるんだよ。

この世でいちばん大事な「カネ」の話 (よりみちパン!セ)
この世でいちばん大事な「カネ」の話 (よりみちパン!セ)西原 理恵子

おすすめ平均
stars食べていくお金が無くて幸せな人はいる?
stars「お金」というより「働く」こと
stars言っていることは正論だが説得力が感じられない
stars貧困論の本として
starsお金というより生き方を教える本

Amazonで詳しく見る
by G-Tools
サイバラの自叙伝ともいえる本。
この本の前半部分に描かれている、サイバラが幼少期に育った高知市浦戸の姿がものの見事に投影されている。それもそうだ、ロケ地は浦戸だそうだし。


「この世でいちばん大事な「カネ」の話」やサイバラの作品群やインタビューには、1964年生まれとは思えないようなビックリするような話が次々と出てくる。サイバラ自身、(義)父との死離別を(少なくとも)三度経ているし、そのドラマもビックリする。
でもそれも高知に行ったら納得すると思う。


俺は西原が生まれた高知市浦戸に行ったことがある。浦戸に行こうと思ったわけじゃなくて、高知の観光地である桂浜に行ったんだけど、そのすぐ裏が浦戸だった。
google マップで見てもらうと分かるけど、

海と山に囲まれた古い漁師町。地理的には閉鎖されてるんだけど、人は開放的、という感じ。でも煮詰まってるんだろうということは容易に感じ取れる。30年も40年も変わってなさそうな、俺にとってはまったく縁がないのに、どこか懐かしささえ覚えるような、そんな集落だった。

中島みゆきは「北の国の習い」で「離婚の数では日本一だってさ」と北海道を歌ったけど、離婚の多さでは高知も群を抜いている。
海に出て命がけで漁をする土地と、冬には生活すること自体が命がけになっっていた北海道、どこか共通する文化があるのかもしれない。


パンフレットのインタビューで西原理恵子は「40年前とあきれるほどに変わってない」と言っているけど、だからこそ現代を舞台にしたこの映画の光景は成り立っている。

浦戸だけじゃなくて、高知って場所はどっかおかしいと思う。
俺が高知に通ったのは2003年ごろ、人として道に迷って、導かれるように歩きでの四国遍路の区切り打ち(短期間の遍路旅)を繰り返してた。
とか、そんな話を書き出すとまとまらなくなりそうだからやめておく。


一言で言うとこういう雰囲気ね。

「会社員、山口組暴力団員3人刺殺」 2007/1/12


会社員というんで驚いたんだが、何のことはない、漁師だった。漁師ってのは、ありゃ、異常だからね。冗談や口先でなく、命を賭けて仕事をしている。刃物は扱い慣れてるし、やたら気性が荒い。じっくり話をすると良い人が多いんだけどね。
http://shadow-city.blogzine.jp/net/2009/01/post_d4a4.html

単純で、迷信深くて、実質本意で。
だから犬神伝説みたいのがあったり、同和がらみのいろんなことがあったり、町も時間が止まったようだし、バスも走ればいいみたいな感じで古いバスの宝庫だったり、遍路で歩いているとお接待とかいってよくしてもらったり。
そういえば遍路と言えば、昔は姥捨て山に近い感じで、捨てられて行き場所がなくて死ぬ場所を探して四国をグルグル回ってた人たちが人たちがいて、それが忘れられた美しい国・日本の真実だったりするんだけど、その人たちが行き倒れたところに石仏を置いたりしてたの。
何百年も前に行き倒れた人の痕跡があちこちに残ってる、それが四国という土地。


出来たら、そういうのを念頭においてこの映画を見て欲しいんだ。