劇場版TRICK霊能者バトルロイヤル〜シリーズの鬱展開を予感

この半月にわたってテレビ朝日をよく見る良識的な視聴者の皆様には大変お騒がせを致しました。「お前のやったことは全てお見通した!にゃむ〜」とか、チキンラーメンを前にして「うっひゃひゃひゃひゃ〜」だの、麦とホップを手にして「うへへへへへ〜」だの、明らかなタイアップでどうもすみませんね。

あんなわざとらしいのの何が面白いのか、とか言われちゃうと、それが面白いんだよ、としか言いようがない。あの独特のどうにもとらえようのないノリ、そこにハマって、もう10年か!
まだ仲間由紀恵は単発で雑誌やテレビに出たりする芸歴の長いだけの中途半端なアイドル崩れだったし、阿部寛は派手な体の地味な実力派という存在だった。

最初は深夜のテレビドラマから始まって、続編ドラマ、映画、ゴールデンのドラマ、映画ときて4年のブランクを置いて今回。

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知らん人のために書いておくと、仲間由紀恵演じる山田奈緒子は売れないマジシャンでコミカルなまでの貧乏暮らし。阿部寛演じる上田次郎は物理学者で科学の子、武闘派の意気地なし。
この絵に書いたような貧乳とデカチンのデコボココンビでインチキ霊能者と対決する・・・んだけど、決してこれは科学万能単純バカ礼賛ドラマではない。どこかで不思議なことを否定しない部分があって、現に山田奈緒子もシャーマンの血をひいていて、現代科学で全てを否定出来るものの、しかしそれ以外の可能性も同時に匂わせる内容になっている。
今回の映画でいうと、藤木直人が死んだ理由として松平健が遅効性の毒薬を飲ませたという科学的な説明がされているものの、松平健はその必要がないのに否定していて、一方で霊能力否定派の佐藤健が霊能力で殺したかのように受け取れる演出がなされている。


霊能力否定派の歴史的人物としてハリー・フーディーニが知られている。
フーディーニは退屈なびっくり人間ショーだった脱出芸をインチキ霊能力者との対決を通じて一流のショーへと高めていった人。
しかしその人生は実は本物の霊能力者を探すために捧げられていた。途中では本物の霊能力者と出会ったと確信した瞬間もあったようだ。最後はフーディーニを本物の霊能力者だと思った客に腹部を殴られ死んだ。
松平健が演じたのはまさにその役回りだった。


ここで着目して欲しいのは、超常現象というものを現代人がどうやって「科学的に否定」していくか、という過程だ。
つまり初めから超常現象の存在を信じない人は、その現象に対して科学的に説明がつくことによって否定する全ての証明が完了したとする。しかしそれは可能性の一つを提示したに過ぎず、他の可能性を否定することにはならない。


例えば火の玉というものの存在。
科学的には、人骨を構成する燐が空気中に溶け込んで発火したもの、という可能性が説明されたために、逆に墓場以外の場所での火の玉の存在は科学的に否定されてしまっていた。
墓場以外で赤い火の玉を見たヤツは嘘つき呼ばわりされてたわけだ。
そこに新たに大槻義彦教授のプラズマ説が飛び出して、墓場以外の赤い火の玉も科学的に存在することになったわけだ。


これと同じことがあちこちで起きてるんじゃないの?
超常現象の存在を肯定する者こそ超常現象を正しく否定出来る、ということがこのシリーズの本当のテーマなんじゃないかと思う。つまり主人公の2人は誤った存在だ。
また今回はフーディーニだけではなく、松平健が出会った本物の霊能力者のエピソードとして、明らかに長南年恵を重ねてきている。ちょっと今までのフィクションとは毛色が違うんだよなー。


まだまだ忘れた頃に帰ってきそうなこのシリーズ、特に今回は山田・上田という同じ方向にいる者同士が、実はその立ち位置が大きく異なってることを暗示している。そのことがこれから大きな不幸を招くことを予感させる展開になりそうで、実に不安だ。