マグロの味噌漬け

マグロの刺身が余って余って仕方がない、普通そんな場面はあまりないと思うけど、魚屋で働いてた俺には結構あった。そうじゃなくても、マグロのサクが半額で売ってたら買っても損じゃないと思うよ。
刺身で食える鮮度が落ちても、焼いて食ったら美味いじゃないか、という話もあるけど、それはトロの部分の話で、マグロの脂がない部分を焼いても固いだけ、普通の焼き魚になっちゃう。


江戸前では「ヅケ」という処理法があって、まだマグロが下魚として扱われていた時代には、醤油ベースの漬け汁に漬けて食うのがポピュラーだったわけだが、これはあくまで食いにくい赤身を食うための手法であって、保存を前提にしていない。
だから今、ネットで「マグロのヅケ」なんて検索しても、保存食としてのヅケではなく、調理の手段としてのヅケばかりヒットして、漬け汁には10分程度漬けてください、間違っても一晩漬けたりなんてしないで下さいね、なんてレシピが横行している。


一晩漬けて美味いかどうかは漬け汁によるんだけどさ。でも10分程度漬けただけのほうが一晩漬けるより美味いのは当然のことで、一晩漬けると変に水分が抜けてネチャネチャしちゃうんだよな。


肉ってのはもともとは旨みが少ないわけで、熟成することによってたんぱく質アミノ酸に変質して旨みになるわけよ。ところが刺身、あるいは腐敗の早い魚肉じゃなかなかその熟成の時間を待てないわけで。


そこで長期保存をしても鮮度の落ちない味噌漬けの出番なわけだ。

特に美味であったのはマグロの茶漬けであった。この美味(うま)さにはまって、さまざまな方法でマグロに下ごしらえしては茶漬けで楽しんできたのだが、結局は味噌漬けと味醂(みりん)醤油漬けをしたものが最後に残った。使っているマグロは、スーパーマーケットなどで売っている短冊に切ったもので、それを通常の刺し身よりやや薄く切り、それを漬け込むのである。
 これまでの経験では、マグロは赤身よりもやや脂肪の乗った中トロあたりだと申し分なく、それを切ってからネギ味噌に二日間潰ける。漬け上がったマグロをさっと焼くのが大切で、丼に盛った飯の上にそれを五枚ぐらいのせ、さらにその上に、漬け上げた時に残った味噌を少しのせてから熱い茶をかけるのである。
http://fudoumyooo.fc2web.com/syun/kaisetu_syun/maguro_3.html

小泉武夫先生の著書からヒントを得たマグロの味噌漬け、ここに俺も行き着いた。
ただ俺は、給料代わりにマグロを支給されてたという事情から長期保存の必然性があって、その点がたまさかにマグロ茶漬けを楽しんだ小泉先生とはちょっと違う。
そんな俺のマグロの味噌漬け。


漬け汁。
焼酎3:味醂2:醤油1:岩塩少々の液体を味噌に溶かして、とろとろの状態にする。

まぐろ。
なんでもいい。筋が多ければ多いほど時間はかかるが、筋が香ばしくて美味い。
漬け時間。
2日以上。筋が多い場合は3日以上。
保存期間。
冷蔵庫に入れていれば10日は生で食える。それ以上は知らん。美味すぎて10日以上残ってたためしがない。
食べ方。
そのままでも美味いし、表面だけ焼いたら最強。しゃぶしゃぶって手もある。(ヅケのしゃぶしゃぶ、略してしゃぶヅケ)
あるいは味噌漬けを醤油に10分漬けて「ヅケ」にすると狂えるような味、口の中にいつまでも残しておきたいような珍味になる。


え?アルコール分?知らんよ。